2026年8月3日、AI の Claude に投げたのは、この一行だけでした。そこから9日間・99コミット。いまは全国602路線・10,625駅から行き先を選べるアプリになって、あなたの手のなかで回っています。
ここは、その一行が5つのかたちを経て今の駅ルーレットになるまでの記録です。作りはじめの頃の版は、そのまま残してあります。触ると当時のまま動きます。
面白いのは、方向を変えたきっかけが毎回、頼んだ側(私)の一言だったことです。作る側の Claude からは出てこなかった発想が、触った感想から生まれています。
「カチカチ回る」という同じ言葉が、案内板とルーレットの2つを指していて、実物を見るまでどちらか分かりませんでした。逆に言えば、作って見せてもらったことで、一往復で確定した。仕様を言葉で詰め続けるより、ずっと速かったと思います。
02 の円盤を 03 の縦リールにしたとき、「数駅だけ大きく」を優先して丸みを捨てました。感想は「ちょっと近づきつつ、ちょっと遠くなりました」。新しいお願いに応えるとき、今あるものの何が良かったのかを確かめずに捨てていたのが原因でした。この一言で、03 の見た目と 02 の回転感を両立させる方法(大きな円の一部だけを見せる)にたどり着きます。
決定打です。それまで弧は「ルーレットの盤面」でしかなかったのが、線=路線、丸=駅と言われた瞬間に路線図というたとえが手に入りました。のりかえも、駅ナンバリング風のバッジも、その後の機能はぜんぶこのたとえの上に乗っています。05 以降、作り直しは一度も起きていません。たとえが決まると、設計が安定する。それが履歴にそのまま出ています。
最初は山手線を含む5路線だけでした。
駅データ.jp という、駅と路線のデータを無料で配っているサイトがあります。そのCSVを変換して読み込ませたら、一晩で全国602路線・10,625駅になりました。
ただし、無料版には新幹線の駅が入っていません。路線のつながりのデータにある駅コードと、Wikipediaで確かめた駅の並びを突き合わせて、11路線ぶんを手で補いました。
もうひとつ効いたのが、環状線の見分けです。山手線を端でバウンドさせるわけにはいきません。つながりのデータから「すべての駅が2本ずつつながって輪になっている」路線を自動で見つけて、山手線・大阪環状線など7路線を「輪として回る」扱いにしました。始発と終着のある路線は、端まで来たらゴムのようにはね返ります。
途中で気づいたことがあります。「行き先を運まかせで決めるアプリ」のままだと、迷った日にしか出番がない道具になる。
実際にやっているのは、回して、とまって、降りてみて、また乗り換えて回す。これは行き先を決めなくても、電車の中でも、寝る前の布団の中でも成り立ちます。いわば降りない途中下車。そこで合言葉を「回して、とまって、降りてみる。」に言い直しました。
同時に、とまった駅になにがあるかを出す作業をずっと続けています。Wikipediaから拾った名所、手で育てている人気施設、近くの宿、駅のそばのごはん屋さん。
近い順に取ってくると、吉祥寺では駅ビルの中のカフェが4件並びます。「おすすめ順」は広告の順なので居酒屋ばかりになるうえ、1件目が1.9km先だったりする。
いま入れているのは、距離の重みを2乗で効かせたくじ引きです。1乗だと、店の少ない稚内で平均1,465m先まで流れてしまう。2乗にしたら1,102mに、由布院は491m→363mに戻って、しかも店の種類は減りませんでした。3乗にすると由布院で2軒消えるので、2乗で止めています。
地味に効いたのが、同じ駅ビルからは1件までというルール。ただし「〇〇駅前店」「北口店」「本店」は建物ではなく場所の言い方なので、除外が必要でした。熊谷では「〇〇 熊谷駅前店」が7件あって、6件が不当に弾かれていたのです。
最初のアイコンは、路線の弧に駅の丸を並べただけの、薄緑のミニマルなものでした。上品だけど、おとなしい。8月8日、「もっと面白い感じのアイコンにできないか」と頼んで、候補を4つ出してもらいました。
Claude はまず、世の中の「面白いアイコン」を4つの型に分けてきました。Duolingo のフクロウのようなキャラクター型、Slack の「#」のように2つの意味を1枚に重ねるダブルミーニング型、ガチャやサイコロの記号を借りるモチーフ遊び型、いまの世界観を守ったまま色と動きの気配だけ足すミニマル進化型。候補は、その型ごとに1つずつです。
選んだのは A のぐるぐる目の電車くん。「どこ行くかわからない!」を目で言っていて、行き先表示は「?」。ホーム画面の小さいサイズでも顔が強く残るのが決め手でした。対抗馬は B のルーレット盤で、機能の説明が1枚で済むのは強かったのですが、「行き先を運まかせで決めるゆるいお出かけ」には顔のほうが合う。C のガチャカプセルは「何が出るかお楽しみ」感がいちばん強いのに、小さくすると中身が潰れました。D は無難で、時計にもコンパスにも見えてしまう。
採用してから、2か所を直しています。車体の角丸は、上下おなじ半径だと丸すぎたので、上を大きく、裾はすっきりに。目は、いちど数学的に正確な螺旋で描き直したら本当にぐるぐるで不気味だったので、濃い瞳に渦のハイライトが入る、最初の案の描き方に戻しました。
その後、電車くんはアイコンの外にも出てきました。回している間だけ画面に顔を出し、着いたら駅名の下に降りてくる。小さく表示したときに顔が読めるように、ほっぺは窓の下の角にまたがる位置へ大きく動かしました。8月11日の午後だけで、顔の検討ファイルが4つ、ほっぺの検討ファイルが2つ増えています。
その9日間で、ホーム画面に置けるアプリ化、独自ドメインへの引っ越し、アイコンの一新、ダーツの旅、宿とごはんの枠、通知まで入りました。
言葉で詰めるより、動くものを見るほうが速い。
「カチカチ回るやつ」の受け取り違いは、会議を10回やっても埋まらなかったと思います。1つ作ってもらって、1言返したら確定しました。
転機になる一言は、作る側の Claude からは出てこない。
5つの版のうち、方向を変えたきっかけはぜんぶ、触った私の感想でした。頼む側がやるべきなのは仕様書を書くことではなく、触った感想を正直に言うことなのかもしれません。
行き先を決めたい日でなくても、なんとなく回して、知らない駅が出て、そこに何があるかを眺める。それだけで、けっこう楽しい。
回してみる